日が大きく傾いた頃ギャロップの町に着いた。
本当はこの町を抜けて野宿をしようと思っていたのだが、パンクしたり、趣のあるルート66沿いの写真を撮っていたら、遅くなってしまった。
仕方ない。思っていたより町が大きかったので、今夜はモーテルを探すか。
何件か安そうなモーテルを当たり、ちょいボロのモーテルにたどり着いた。
入ってみると、カレーマサラの匂いが鼻をついた。カウンターを覗くとやっぱり。
中学生くらいのインド人の男の子が店番をしていた。
「部屋空いてる?一泊いくら?」
「39.99ドル+TAXだよ」
・・・相場だな。だけどちょっとボロいし、ここで泊まる事もねぇか。
「そっかぁ、わかったよ。ありがとね」
僕がその言葉を言い終わるか、言い終わらないかくらいのところで
「ノッ。35.99ドル+TAX」
その瞬間とても懐かしい空気が蘇ってきた。
この素早さ。間。この少年が移民何世かは知らないが、少年には脈々とインド人の血が流れているようだ。
意外と思われるかもしれないが、割とモーテルは値引きがきく。ただ、もちろんあまりガツガツといかない。一回お願いして駄目なら諦めるし、だいたい相手の言い値で抑える。まぁそりゃそうだ。
インド人経営の所も少なくないが、そこでもやはり北米ルールをわきまえる。
だけど、僕は久しぶりにインド人とガツガツやってみたくなった。
ちょうど少年の親父さんが出てきたので、
「まけて~」と言うと
「ここはみんな、35.99ドル+TAXで泊まってもらってるんだ」
今度はさらっと35.99ドルを明かしてきた。つまり少年は4ドルを懐に入れようとしていたのだ。
いいぞ~少年。それでこそインド人だ!インド人はそうでなくちゃ。
僕はさらにこの宿が気に入り
「実は数件前に29ドルの宿を見つけてんだよね~(本当)
ねぇ30ドル税込みで泊まらせてよ」
すると「じゃ32.62ドルでいいよ」
北米なら普通これ以上突っ込めない。だけど、相手はインド人だ。もうちょっと行ってみよう。
「え~!向こうが29なのに!?」
「そんな安宿はジャンキーの溜まり場だ。止めた方がいい。 それにほら、もう外は暗いだろう?この辺は夜になると、若者や、ジャンキーが多いんだ。悪い事は言わない。ここで泊まって行きなさい」
と親父さんは大きな目をさらにクッと開き、物凄く真剣な表情で言ってきた。
やべぇ・・・この表情は・・・
インド人が嘘を言う時の典型的な目だ~~~~~~。笑
おっちゃんそれ完全に嘘やろ~~~
なんてしくマニュアル通りなんだろう。思わず吹き出しそうになる。
やべ~。やっぱインド人最高だ。
さすがにこれ以上行ったら、北米人は怒るだろう。
でも
「じゃ後1ドルまけて。31ドルだったら泊まるよ。」
もうちょっと行ってみる。
親父さんは「・・・特別だからな。31.62だ!!」
「え~。なによその62セントって~!気持ちよくスッパーンと切ってよ」
すでに金額ではない。僕は久しぶりのインド人とのやり取りが楽しくてしょうがなかった。
「これは切れないんだ」(でなんかルールを説明された)
本当はもうちょっと楽しみたかったけど、さすがに止めておこう。
「じゃそれで泊まるよ。ありがとね」
その後つり銭をごまかそうとする少年も、愛らしかった。
~で翌日~
ここの宿は朝食が付いている。モーテルは割りとそういうサービスをしている所が多い。
ちなみに僕は朝食付きの所では、2回朝食を食べる。寝起きに一回。出発前にもう一回。
チャリは腹が減るのだ。
ここの朝食は、ドーナツと食パンと飲み物しかなかったが、意外にドーナツがおいしく僕はひたすらドーナツを食べていた。
そこにあるドーナツをほぼ食べつくし、お腹がいっぱいになったので、
さぁ出発と思ったとき、親父さんの奥さん(もちろんインド人)が
「よかったらこのドーナツも持って行きなさい」と裏から持ってきてくれた。
インドには貧しい人に施しをする事(バクシーシ)が、宗教上美徳とされているが、ドーナツ食い尽くしちゃうような客に、さらにドーナツくれるなんて・・・。
もしかして俺が自転車乗りで、汚い格好してるし、宿代めっちゃ値切るし。何日も食べていなかったの様に、一心不乱にドーナツ食べてるし。
金ナシの、浮浪者に思われちゃったかなぁ
とはいえ、ありがたくバクシーシを頂いた。
やっぱりインド人って大好きだ。
「ダンニャワード!!」